ミモザ




紺色の、糊のきいたようにパリッとしたトレンチコートの男性が、前から歩いてきた。
腕には、すっぽりと収まった大きな花束。
姿勢よく、足取りは静かで、それでいてどこか軽い。

 すれ違うその一瞬、視界の端に鮮やかな黄色がよぎった。
思わず振り返る。

 それは、こぼれ落ちそうなほど満開のミモザだった。
ふわふわした綿毛のような花が、彼の歩みに合わせて揺れている。

私はしばらくその様子を眺めていた。
あの花束は、いまから誰の手に渡るのだろう。
そんな風に花を受け取ったのは、いつだっただろう。

その背中は角の喫茶店に消えていった。
扉の向こうで、ミモザがもう一度だけ揺れた。
さっきまでそこにあった黄色が、ふわりと空気に溶けた。