五島


 

季節外れの海はとても静かだった。
ただ波の音だけが聞こえる。
「意外と、いいね」
行く前までは離島に興味が無い、と言い切っていた友達がつぶやいた。

海は不思議だ。
遠くからだとエメラルドや深い青に見えていたものが、近づいてみると驚くほど透明だ。
人目が無いのをいいことに、スカートのすそを上げて少しだけ海に入ってみた。
そろそろ秋も深まってくる季節なのに、海は私たちを包み込むように暖かい。

目の前は突き抜けるような青い空。
そして果てしなく広がる海。
周りは山に囲まれていて、海岸線を走る車は無かった。

誰もいない。

こんなにも広い空間の中で、この世界にたった一人だけ取り残されたような感覚に襲われる。
心許なくなって彼女をふと見てみると、何かに取りつかれたようにカメラのシャッターを切っていた。
いつも通りの彼女がいて少しほっとする。
良かった、世界は私ひとりだけじゃない。
「そろそろ行かないと間に合わないよ。」
彼女に声をかけて次の目的地へと向かった。

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