24H 9:00 p.m.



「君は面倒な事を言わないから楽だな。」
それってどういう意味?という言葉は飲み込んだ。
聞いたところで不毛な答えしか返ってこない。
「…奥様はどんな人なの?」
「とても女性的な感じだよ。とてもね。」
そう言って煙草をくゆらせた。

太陽が隠れてからが私たちの時間だ。
夜の暗い闇が後ろめたさも隠してくれる。
デートはいつも同じ。
繁華街から少し離れた場所で軽くご飯を食べて、お馴染みの地下にあるバーへ行く。
この後はきっと私の家に来て、日付けが変わる前にすっと消えるのだろう。
煙草の苦い香りを残して。

「旅行行きたい、バッグが欲しい、ネイルサロン行ったの、って…疲れるんだよね。
結婚するなら君みたいな自立した人がいいな。」

結婚する気なんてさらさら無いくせに。
彼女がSNSで彼との幸せそうな日常を投稿をしていることを私は知っている。
この前は旅行へ行ってたでしょう?
出張だと言っていたけれど、結婚記念日の旅行だということは彼女の投稿で把握済み。
いつからこんなに嫉妬深く、嫌な女に成り下がってしまったのか。
アルコールでぼんやりとした頭を巡らせてみたけれど、これも恐らく不毛なことだ。

今日は私たちにとっても記念日だってこと、覚えてる?
この日のために少し高級なチョコレートを準備した。
赤い箱を選んだのは目立つから。
彼女に気付かれることを期待している私は、きっとどうかしているに違いない。
卑怯なこの男も嫌いだけど、一番疎ましいのはこの感情に見切りを付けられない自分自身だ。
あぁ、もううんざり。
私の決まらない心の様に、煙草がじりじりと燻っていた。

 

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